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碁会所の囲碁仙人のお話


古風な住宅街の碁会所の「さうたうな棋士」


 俗に「万年5級」とか「万年3級」といわれる人は、囲碁を打つ人の中で最も多いのではないでしょうか。碁会所にはあまり顔を出さない人たちです。碁会所に行きたくても、怖くて行けないのですね。

 たまに勇気を振り絞って、あるいは無知の故か、中級者が碁会所なるところに行くことがあります。おそるおそる入ると、見るからに碁が強そうな人にジロリと一瞥(いちべつ)されたあげく、相手がいないから少し待てといわれる。仕方ないので他の人の対局をぼんやり眺めていると、席亭が「5級の方ですが、お願いしてもよろしいですか?」と、恐縮しながら初段の人を連れてくる。この時点でたいていの人はすでに碁に負けているのです。

 初心者から見れば初段は「別世界の人」かもしれませんが、碁会所では「弱い人」の部類に入ります。しかし、このときばかりは「仕方ないなあ」というような顔をしながら、「下手イジメ」に闘志を燃やします。さんざんな目にあって碁がいやになる。そんな方も少なくないでしょう。

 私が碁会所に初めて行ったのは28歳のときです。棋力は5年間3級で止まったままだったので、少しは強くなりたいと思ったのかもしれません。

 東京は杉並区のとある路地の一角に見つけたその碁会所は、戦前の面影を残した木造の古い住宅でした。ガラス戸からそっと中をのぞくと、座敷の上で2人の学生風の男が対局中で、それを中年らしき男がこちらに背を向けて観戦している。誘われるように引き戸を開けると、背を向けていた男が振り返り、「どうぞ、こちらに」と愛想がいい。運のいいことにその人は2級なので、私の先番でさっそくお手合わせをすることになりました。

 あまりに面倒見がよいので、この人が席亭かと思っていると、しばらくして奥の間から仙人のように長いあごひげを垂らしたむさくるしい老人が出てきました。本物の席亭の登場です。

 席亭は、細い目から発する眼光が鋭く、一見プロ棋士のような風貌でしたが、棋力はアマ初段程度。昔はかなり強かったのだが、脳卒中で倒れてから別人のように弱くなったということでした。

 彼は相手に上手そうな手を打たれると、「さうたう(相当)な棋士だ」とつぶやくのが癖でした。でも、あまり困った様子はなく、そんなときに限って負かされることが多かったのです。口三味線だけは一流でした。

忘れられないシチョウの一局

 囲碁仙人との碁では忘れられない一局があります。そろそろ3子の碁も卒業したいと思っていたある日、優勢に進めていた碁が途中から乱戦模様になりました。そして、老人は狙いすましたように私がシチョウに抱えていたタネ石を逃げ出しました。タネ石の行き着く斜め上方には、いつの間にかシチョウアタリらしき白石が待ち構えているではないか!

 一瞬、愕然とした私は、冷静に読み直し、「石が少しずれている。取れるはずだ」と思って、シチョウを追いました。しかし、彼は間髪を入れず、自信たっぷりにシチョウを逃げる。不安になってまた読み直す私。もう勝ったという手つきで逃げる仙人。

 4回ほどシチョウの石を逃げたあと、彼は「お見事!」と言って投了しました。最初から取られるのがわかっていて、投了する前に私を試したのです。

 こんな海千山千の大人たちでしたが、その碁会所には妙に相性のよさを感じていました。その後も、月1〜2回のペースでそこに通い、互先でくだんの仙人に勝つまで碁会所通いは続きました。

 碁会所通いは、一にも二にも席亭や常連さんとの相性です。三番目に大事なことは、互先か自分よりほんの少し強い人が常に身近にいることでしょうか。1回行っただけであきらめず、いろいろなところに顔を出してみることです。心の安らげる相性のよい碁会所を見つけることも、囲碁上達の条件です。

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